モキュメンタリー

黒澤司(YAOYOROS、世界ヒッチハイク部、武蔵野航空警備隊)

春と桜と男と女

静かな日々が目まぐるしく過ぎていく。

いつのまにか冬は溶け、眠っていた春が顔をだしている。

労働後にバサラブックスに立ち寄り、あれこれ物色していると、見覚えのあるマーキングとメモが書かれた本を見つける。

その本は以前、僕が購入して書き込んだものであった。

引っ越しの時に売却したのを記憶しているので、誰かの元に渡り、バサラブックスの本棚で次の主人を待っていたのだろう。

ぺらぺらと読んでいると、今の僕の内情にぴたりとはまってしまい、数冊の本と共に購入。

一度手放した本やCDをまた買うことがある。

そんな無駄にも思える行動を繰り返して生きていると思うと、なんとも滑稽である。

バサラブックスを後にして、井の頭公園に夜桜を見に行く。

公園内は花見客の笑声と奇声で充満していた。

桜が全力で咲く姿は美しく、恐ろしくもあるな、と思う。

ふらつきながら2.3枚の写真を撮った。

人の少ないポイントを探してベンチに腰を下ろし、購入した本を読む。

北風が吹き付け、手が悴みながらも1冊読み終えたが、もう限界だな、と思って、ふと桜を見上げると、その向こうには美しい星が咲いていた。

北風はロシアのシベリアからやってくると聞いたことがあるが、シベリアの人々の鼻先をくすぐった風が今、僕の身体を震わせていると思うと、少し心が膨らむような気がした。

帰り道、昼は喫茶店で、夜はバーになる店に入り、ちびちびとやりながら、この文章を打ち込む。

となりで飲んでいた初老の男と若い女は、艶言を投げかけあって頬を染め、春の夜街に吸い込まれていった。

店内のBGMはジュリー・ロンドンの「ラヴ・レターズ」

春、桜、男と女。

この季節には不思議な魅惑がある。

2019年1月9日(水)晴れ

夜が降ってきて 風がごーごー唸っているなか 自転車でぶらつく 人間なんて存在していないかのように 風が走り去って行く 正月を連れて

近所の喫茶店に入り  展示をみながらウイスキーのお湯割りを口にするが コップ一杯飲み干したところで 年末年始の疲れがどっと出た

自分は元気だと思っていたし 疲れなんてみじんも感じていなかったのに 体がずしんと重くなって 泥みたいになって 椅子と同化した

昨日アップリンクで観た「地球に落ちてきた男」のことを考えていると夜が積もっていった  奇抜に見えて  わりと地味な映画だと思った ボウイはさすがだった

おれのへやは 静まりかえっていて 

戦のまえの武士は こういうへやで気持ちを整えたのかなと思って いや ちがうなと思って

車が道を滑る音  カラスが鳴いた  寒いのか

ここを覗いてくれてる稀有な貴方 どうもありがとう  今年も綴っていこうと思ってるので  よろしくね ✌︎

2018年12月4日(火)晴れ

壁紙を引っ剥がしたかのように季節は変わった、と思っていたが、今日はとても暖かい一日だった。

労働後、近所の図書館に行って、適当に本棚から詩集をひっこ抜いて読む。

久しぶりに読んだ立原道造はとても優しく、少し泣きそうになった。途中でうとうとしながらもすべて読み終えると、すっかり閉館時間で、門番の警備員が怪訝そうな顔で俺をみつめていた。

ありがとうございました、とお礼を言って外に出ると、生ぬるい風がピューピュー吹いている。

コンビニでけんちんうどんを買って井之頭公園へ。

暖かいからか、わりと人は多く、若者たちが酒を飲んでキャッキャしていたり、男女が暗闇に隠れてクネクネしたりしていた。

ぷらぷらしながらベストポジションを探していると、妙な気候でおかしくなったのか、奇声を上げている男もいた。

なんとかベストポジションを見つけて、けんちんうどん、食いながら、謎の虫の歌声を聴いたり、風で揺れる木々のダンスを見たり、鼻からスースー空気を吸ったりしていた。

ぼんやりと新しい歌のことを考える。

退屈だったけど、今俺が忘れていたことは、こういった、一人で世界と遊ぶ時間なんだと思って、妙に納得した。

しばらく、けんちんうどんを眺めて、景色をすすっていると、微かに雨の匂いがしてきたので、急いでマンションに帰った。

「Have a good time!」

突然思い立って転職をして、引っ越しもして、騒がしい毎日を過ごしていた。

そんな中、1カ月、アメリカへ。

仕事としてだけど、少し観光も出来た。

大好きな天文台はいくつか行けたし、気に入った田舎街には数日滞在して生活をした。

田舎町に住むミュージシャンの渋い演奏と、それを自分らしく楽しむ老若男女に強く感銘を受けたりもした。

何千キロとドライブをした車の中で、色々な音楽をじっくりと聴けたのも良かった。

壮大な景色と溶け合って、ああ、なんて美しいのだろう...と何度も思った。

 

些細なことだが、アメリカで一番感動した事は、お店から出る時などに必ず「Have a good day!」とか、「Have a good time!」とかシンプルに、言われた側が嬉しくなるような言葉を掛けてくれることだ。

これはお決まりの言葉で、日本の「ありがとうございました!」と一緒で、そう教育を受けているのだろう。

それを分かっていても、朝食を買ったコンビニで、この言葉をかけられると、自然と、今日も頑張ろう、と思えたのである。

僕にとって、一日をコーディネートしてくれるような魔法の言葉だった。

 

しかし、もちろん良いことばかりではなかった。

アメリカの洗礼もたくさん受けた。

レジを打ち間違えたことを指摘した際の見事な舌打ちは僕の貧弱な心を打ち抜き、レンタカー会社でめんどくさそうな態度をされ理不尽な文句を言われた際の行き場のない怒りは、僕を無の境地へと至らしめた。

極め付けは、車上荒らし(レンタカーの窓をバリバリに割られた)をされた際、

警察署にて、被害届などの手続きが終わり、憔悴しきっている僕に向かい、ルイ・C・K似のポリスメンが言った。

 

「Have a good time!」

 

 

言葉とは時に残酷なものである。

 

 

アメリカに1ヶ月滞在したんだから、少しは荒々しい男になっただろう、と思っていた。

しかし、今日電車の中で、隣に座った男が小指で鼻くそをほじくって取れたブツを椅子に塗りつけたのを見て、うわ...きちゃない...と思ってしまった自分自信を客観視して、荒々しい男への道はまだ遠いな...と思い直したのであった。

 

明日は吉祥寺でライブ。

少し荒々しくなった僕を観に来てください。

2018年9月11日(火)くもり

労働後、チャリで公園を流しました。秋の虫がチーチー鳴いていて、少し前までは暑すぎて離れていたカップル達も、磁石のようにくっついておしゃべりをしたり、くねくねしたりしていました。木も涼しそうな顔をしていて面白かったです。

図書館に立ち寄って、本棚から適当に詩集を引っこ抜いて読みました。気になる言葉がありましたが、ノートを持っていませんでしたので、ポケットを探ってレシートを見つけ、その裏にメモをしました。

季節は転がり、ひんやりした風がカーテンをひらりと揺らして部屋の中に入ってきます。 秋の虫たちの歌声を聴きながら眠りにつくときなんてのは、贅沢な気持ちになりますね。

それにしても 秋の虫たちは よく歌いますよ。私にも教えてくれないかね。どうしてそんなに素晴らしい歌をうたえるんだい。夏が終わる と いうことなんですね。

 

2018年9月10日(月)曇りのち雨

転職、引っ越し、色々あった。

逃げるように、そして追うように。

人生の岐路という言葉が本当にあるのなら、まさに今である。

結婚でもなく、出産でもなく、たった1人、俺だけの岐路は少しぐらついた丘の上にあったが、迷いはない。

労働中、静かに雨は降りだした。コンクリートがみるみる黒く染まり、その上を車が滑っていく。

帰り道、横殴りの雨でずぶ濡れになった。 ひらきなおって濡れを楽しんで、一人はしゃいで帰っていると、 曲がり角から20代前半といった風貌の女性が ひょいと出てきて、変なものを見てしまった! と いうような顔をして 走り去っていった。

アパートに帰り、頭を体を拭き、何通かのメールを返信。

雨が屋根を打つ音を聞きながら、新しい歌をぼんやり考える。

今年は海にも山にもいかず 肌は白いまま。

2018年7月20日(金)快晴

とても夏らしく 暑い一日だった。

労働後 スーパーマーケットに寄る。涼みつつ  土用丑の日なので鰻でも食べたいなと思い  弁当コーナーをチェックしたら  2000円もして   まじかよと思いながら そっと戻した。

アパートに帰って 映画を観たり歌詞をまとめたり ごにょごにょと作業をしていた。飽きてしまい 窓を開け 夜がゆっくりと落りてきたのを確認してから 蚊取り線香に火をつけて ベランダにおいた。 窓から風がたっぷりと入ってきて 微かに漂う 蚊取り線香の匂いをスースー嗅いだり  ベッドにごろりと寝っ転がって ピーピーという夏の虫の声を聞きながら  ガサガサと揺れる葉音を聞きながら  読みかけの本を読んだりしていた。あとは 1週間前にみた映画を思い返していた。あんなに平穏で狂気に満ちた映画はみた事がない とても鋭い映画で 面食らった。 作品が持つパワー  グッと引き込むパワー  ハッとさせるような言葉を出したいし  歌いたい。 

長年住んだこの家での生活もあと少し  焼き鳥二本  色々な思いも一緒に缶ビールで流し込んで 布団にもぐる。